偽りの天才彼氏を、私は真実で裁く生まれながらに一度も負けを知らなかった天才将棋棋士、諸隈真祐(もろくま しんすけ)。
そんな彼は、奨励会三段の若手に敗北を喫した。
その日、ネット上は蜂の巣をつついたかのような大騒ぎとなった。
何十人もの記者が将棋道場の入り口で私を待ち構えていた。
「合川さん、諸隈さんは以前、自分に一度でも勝った者がいればその者を妻に迎えると公言していましたが、今回の奨励会三段への敗北について、どうお考えですか?」
「合川さん、その三段は諸隈さんが海外にいた頃の元恋人だという噂がありますが、ご存知でしたか?」
頭の中でキーンと耳鳴りがし、真祐と付き合っていたこの五年間がふと脳裏をよぎった。
私はいつだって全力で勝負に挑んできたが、彼に勝てたことは一度もなかった。
彼は真剣に勝負に向き合っているからこそ、私に勝ちを譲らないのだと、単に私の腕が足りないだけだと信じて疑わなかった。
けれど、今日彼があの三段にわざと負けるのを見るまでは。
彼が結婚したいと願っていた相手は、最初から私ではなかったのだと、ようやく思い知らされた。
記者たちのマイクを前に、私は無理に笑みを浮かべて言った。
「あの対局には、裏があります」